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頭の中って不思議です。感情や感覚や記憶といったものが脳の中でどう発生・感知・収納されるのか、TV番組などで説明されても電気信号と有機物がどうしても結び付かない。それよりも小説などで比喩表現として語られる脳の世界の方がずっとしっくりします。とことん文系人間ということなのでしょうか。

 『六本木夜間診療所』、『六本木夜遊民』
   檜原まり子 ill.桜遼/白泉社・花丸ノベルズ(2002.7、2003.1)
【こんなお話】
六本木のパブに勤める日系ペルー人ホアン。家族と恋人をテロで失い、祖国を捨てた彼は大都会の漂泊者として暮らしている。ある夜、怪我をした友人を連れて訪れた夜間だけ開く診療所で医師・真木泉に出会う。たった一人で患者を診ている真木の並外れた美貌と謎めいた雰囲気に惹かれ、更にその人となりに接するうちに再び生きる意味を見出すホアン。それは或る事情から心の奥底で生きることを放棄していた真木も同様だった。
しかし真木には在日台湾人医師・林俊成というパトロンが、またホアンには周囲の状況や彼自身の放つオーラから所轄の刑事やヤクザに目を付けられていて、トラブルに巻き込まれていく。

別タイトルですが、二冊で一つのお話として読んだ方がいいと思います(『夜間診療所』だけだったら暴れたくなります/笑)。
 <この先ネタバレあります>
夜間がメインの話とはいえ、常に影の気配がするストーリーです。出てくる人物も主CPをはじめ、出稼ぎの外国人労働者や学費稼ぎの留学生、出世から取り残された刑事果てはお決まりのヤクザなど、事情を抱えた人ばかり。
そんな中でも主人公のホアンはひときわ異彩を放ってます。
彼には愛する人たちを理不尽な暴力で失ったという悲惨な過去の他に、秘密にしていることがあります。それは持たない人から見るとうらやましくて仕方ない能力のように見えて、持っている人間からすると或る意味つらくて堪らない力です。忘れることが出来ない―― 一度見聞きしたことはどんな些細な事でも例え一瞬の事でも全てを記憶している。確かに彼の場合でもその能力が仕事に活かされていたりしますが、それゆえに過去のつらかった事件も再び体験しているかの如く詳細に思い出されるのです。私や私の周囲の人間でも嫌なことや都合の悪いことはうまく忘れていたり都合の良いように記憶を書き換えていたりするものです。忘れることが出来ないつらさは想像を越えます。
もちろんつらい事ばかりではありません。仕事に活かせるという機能面とは違うもう一つの秘密、ホアンが「記憶の森」と呼ぶ厖大な記憶の集積でできた脳の中のフィールドで、詳細な記憶により再現された愛し愛された人々とひと時を過ごすこと。これにより彼は随分と慰められてきたのです、現実から逃避するという側面があるにしろ。そして、少しSFチックな表現で描写される森のシーンは読んでいて知的好奇心も刺激されました。
更に、まだ二十歳の若さながら、①ゲリラと闘っていた経験から腕っ節も強く度胸もある、②幼い頃より本好きで祖父の書庫に入り浸って読んだ全ての本が記憶されている、③語学の才も有り母国語(スペイン語)と日本語の他にフランス語・英語・広東語・韓国語・ロシア語が話せる(ロシア語は喋れるが読めない)。
そのうえハンサムで身長もあり体格もいい、ときたら色々とツッコミたくなりますよね?
そこはやっぱり若造、悲惨な過去があっても(いやあるから?)精神的にはお子ちゃまな部分がかなり残っていて、時に短絡的思考に走るきらいがあります。おかげで真木は否応なく母親(ちょっぴり父親)的役割を担わされます。恋人関係になってからは、でかい図体で甘えてサカるので真木はフラフラ、林はカンカンといったことも(苦笑)。

さて一方の真木。
彼の抱える“事情”もとても苛酷なものです。天使か聖母のような慈悲深き存在に見えるのは生来の優しさに加えて、何ものにも(自分にも)執着していないから。それがホアンとの出会いで少しずつ変化していく。彼の事情の明かされる『夜遊民』終盤に至って、その小さな変化の本当の大きさに胸打たれました。そして彼もまたホアンとは違う意味で「記憶の森」に囚われていたのだと知ることになるのです。
設定的にはホアンの方が派手ですが、真木の持つ弱さを含んだ強さ優しさにKOされました。

「記憶の森」というキーワードが気になって読みたかった作品ですが、読んでいて何度鼻の奥がジーンとなったことか!(普通は眼の奥?) 昼と変わらぬ喧騒を誇る夜の街で、寄り添い合う孤独な二つの魂――と表現すると陳腐過ぎますが、やはり心魅かれるテーマです。ラストのほんのりした明るさも私的には良かったです。これを暗い&貧乏臭いから読まないとしたらそれは大損ですよ、と申し上げたいくらい私は気に入りました(「明るくないと&甘い夢が無いとイヤ」という方にはオススメしません)。本当に読んで良かったーー!!

  [ 蛇足 ]
単なる当て馬と決めつけられない林せんせいの存在が面白い。真意が何処にあるのかなかなか掴みづらい、嫌な問題についても現実的な解決方法を提示できるオトナです。もっとも歳を重ねた時に「大人」と呼ばれるような大人物になれるかどうかは判りませんけど(笑)。
そして、多分彼は明確なバイセクシュアルというより、気に入ったら男女は関係ないという“なし崩し”タイプじゃないかしら?ゲイ寄りでもヘテロ寄りでもない全方向OKというとんでもない人ではあるまいかと思われます。奥さんになる人はかなり腹の据わった女性でないと務まらないでしょうね。出来ればこのまま特定の恋人をつくらずあちこちで茶々を入れ続けて欲しい。

真木、林ときてホアンの名前にも木が関係してないか調べたら、やはりそうでした。
フルネーム「ホアン・ナランホ・ヤマガタ」のナランホ(Naranjo)には「オレンジの木」という意味があるそうです。“オレンジ”というのが、彼の熱さや生命力を象徴しているようで面白いですね。


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